タイガー薬局の面薬局開業録 TIGER PHARMACIST

はじめに

前回のコラムでは、タイガー薬局が実践するSNSの活用術について触れました。LINEやInstagram、Xなどの各プラットフォームの特性を活かし、患者様や地域住民の方々、さらには同業者との繋がりをどのように構築しているかという内容でした。

今回は、私たちがこれまで歩んできた地域活動の軌跡と、2026年8月に実施した「うちなだ健康フェア」の模様をお届けしたいと思います。「地域活動」という言葉を聞くと、何か大層な社会貢献を想像されるかもしれません。しかし私自身は、決して特別なことをしているという自負があるわけではありません。

開業以前から抱いていた理想は、単に処方せんを受け取り調剤を行う場所ではなく、地域の皆様が健康なうちから気軽に立ち寄れるような拠点を作ることでした。なぜ敢えて地域活動に心血を注ぐのか。そして、継続した先にどのような変化が訪れたのか。独立を志す皆様のヒントとなるよう、私自身のリアルな体験談を綴ります。

 

1.地域に出るのも、薬局の仕事

タイガー薬局では、公民館での健康教室やサロン、地元のカフェ、介護セミナーなど、住民の皆様と直接対話できる場を積極的に設けてきました。公民館で講話を行っていると、地元ならではの心温まる場面があります。

私自身とは初対面であっても、
「お父さんのことはよく知っているよ」
「おばあちゃんとも面識があるよ」
と温かく迎え入れていただけることがあります。

この地で育った私にとって、意識せずとも既に家族同士の絆が存在しているのです。その話題をきっかけに、会場の雰囲気は一気に和やかなものへと変わります。そこにあるのは「講師の薬剤師」としての堅苦しい関係ではなく、近隣住民同士が健康について語り合うような心地よい時間です。こうした地域との親密な距離感こそ、私が地元での独立にこだわった大きな理由でもあります。

本来、薬局とは処方せんを介したやり取りだけに留まる場所ではないはずです。不調を感じてから出会うのではなく、元気なうちから健康維持に携わる。万が一の際には、処方せんの有無に関わらず真っ先に頼っていただける。そんな理想を具現化するために、私は独立の道を選びました。私にとって地域活動は「無理をして頑張るもの」ではなく、むしろ地域の中へと飛び込んでいくこと自体が薬局の重要な務めであると捉えています。

 

2.「それで、処方せんは増えるの?」

他の経営者の方々と意見交換をする中で、時折このような質問を受けることがあります。

「どうしてそこまで活動を広げているのか?」
「その結果、処方せん枚数は伸びているのか?」

経営という視点に立てば、極めて真っ当な問いかけです。地域活動を維持するには多大な時間と労力、そして相応のコストが伴います。そのリソースを、より直接的に利益へ結びつく業務へ注力すべきではないか。そう考えるのも一つの経営判断でしょう。確かに、一度の講話が翌日の処方せん枚数を劇的に増やすといった即効性はありません。

しかし、私自身、単なる処方せんの獲得を最終目的に活動しているわけではないのです。では、なぜ継続に価値を見出すのか。活動を積み重ねる中で、次第に確信へと変わったことがあります。地域の方々から、

「タイガー薬局さんは、いろんなことしているよね」

というお声を頻繁にいただけるようになりました。そして、その認識は住民の皆様だけに留まりません。医療や介護の現場で活躍する多職種の専門家からも、

「タイガー薬局は先進的な取り組みを続ける存在」

として信頼を置いていただける機会が増えたのです。私は、この「認識の浸透」こそが極めて重要な資産であると考えています。

 

3.「何かあったらタイガー薬局に」と思い出してもらう

SNS運用においても、Instagramを単なる「集客ツール」とは捉えていないと述べました。地域活動もその本質は同じです。イベント一つで何枚増えた、健康教室一回でいくら売り上げたといった短期的なKPIで評価を下すのは、本質を見誤る恐れがあります。

大切なのは、

「タイガー薬局という頼れる場所がある」
「常に地域のために動いている」
「健康の悩みなら、あそこに相談すればいい」

という認知を地域に根付かせることです。現に、公民館のサロンでの出会いをきっかけに、後日店舗へ足を運んでくださった方もいらっしゃいます。

「あの時の薬剤師さんだね」

という会話から、新たな信頼関係が芽生えていくのです。処方せんが入り口ではなく、まずは地域社会で出会い、顔見知りとなり、その延長線上で薬局を利用していただく。そんな「信頼の先払い」のような形があっても良いのではないでしょうか。

また、これは住民の皆様との関係だけに留まりません。外へ出ることで、看護師や管理栄養士、リハビリ専門職、行政の方々など、閉鎖的な薬局業務だけでは接点のなかった多職種と繋がることができます。強固なネットワークが構築されれば、

「この相談はタイガー薬局の得意分野だ」

「今度、一緒にこんな企画をやりませんか」

といった連携の輪が自然と広がっていきます。活動を継続し、地域におけるタイガー薬局のアイデンティティを確立すること。それ自体が、何物にも代えがたい価値を生むのだと実感しています。

 

4.「こういうことがしたかった」が形になった健康フェア

2026年8月、かねてより構想を練っていた地域住民向けの一大イベント「うちなだ健康フェア」を結実させることができました。会場に選んだのは、内灘町の憩いの場である「ほのぼの湯」です。健康志向の強い方だけでなく、お風呂を楽しみに来た方が

「楽しそうなことをやっているな」

と自然に足を止めてくれるような、開かれた空間を目指しました。当日はバイタル測定や血管年齢のチェック、栄養相談からお子様向けの企画まで幅広く用意。薬剤師のみならず、看護師、管理栄養士、理学療法士、作業療法士といった多彩な専門職の協力を仰ぎました。

この催しを通じて最も感銘を受けたのは、来場者数という数字以上に、行政、施設、企業、医療職がそれぞれの持ち味を出し合い、一つの場を共創できたことでした。住民の健康増進の場であると同時に、地域を支える多職種の絆を深める交流の場としても機能したのです。特定組織に偏ることのない持続可能な運営体制を確立できたことも、大きな収穫でした。

終了後に感じたことは、

「まさに、これこそが自分のやりたかったことだ」

という確かな手応えでした。薬局の中で待機するのではなく、自ら外の世界へ踏み出すこと。独力で完結させず、多様なパートナーと共に健康を考える契機を作ること。独立前に描き続けていた薬局の青写真が、ようやく鮮やかな形を成した瞬間でした。

 

5.独立して、「何をする薬局」を作りたいのか

この連載に目を通してくださっている方の中には、将来の独立開業を視野に入れている方も多いはずです。物件の選定、見込める処方せん枚数、損益分岐点……。当然、これらは経営者としてシビアに検討すべき事項であり、私も同じ道を歩んできました。しかし、数字と並行して、ぜひ自問自答してみてほしいことがあります。

「自分は薬局という城を持って、一体どんな価値を提供したいのか」

どれだけ効率よく調剤するかだけでなく、地域社会において、どのような存在として認められたいのか。私の場合、それは「薬が必要になる前のフェーズ」から住民の皆様と深く関わることでした。外へ出て、多様な人々と健康を語らう。その活動の結果として、

「タイガー薬局は、いつも面白い試みをしているね」

と言っていただける土壌が育ってきました。これは、単なる自己顕示欲を満たしたいわけではありません。多種多様な場所で顔を合わせ、協働し、背中を見せる。そうした微細な接点の積み重ねこそが、

「困りごとがあれば、まずはタイガー薬局を訪ねてみよう」

という、揺るぎない信頼関係の源泉になると信じています。枚数を追うために地域へ出るのではありません。しかし、地域から愛され、真っ先に思い出していただける存在になることは、長期にわたる安定経営の確固たる礎となるはずです。

 

6.「地域共栄」を少しずつ形にする

タイガー薬局の理念に、「地域共栄」があります。薬局だけが独り勝ちするのではなく、地域と共に豊かになっていくこと。私たちが地域に貢献する一方で、住民の方々や各界のプロフェッショナルに支えられ、私たち自身もまた育てられていく。地域活動を通じて、この理念が持つ真意が少しずつ私の中で解像度を増してきました。

「タイガー薬局は、常に新しい可能性を模索している場所だ」

そう思っていただけるようになったことは、私にとって何よりの勲章です。売上の数字だけでは計測不可能な価値がそこにはあります。顔を覚え、信頼を積み上げ、一番に想起される存在になること。そして、

「あなたと一緒に、何かを成し遂げたい」

という共感の輪を広げること。これこそが、私の理想とする薬局経営の姿です。SNSでの発信も、現場での地域活動も、根底に流れる精神は一つです。タイガー薬局の志や取り組みを広く知っていただき、人生の必要な局面で、皆様の心に真っ先に浮かぶ存在でありたい。

私たちはまだ、挑戦の真っ只中にいます。これからも薬局の壁を越え、地域の皆様と共に、一歩ずつ前進していきたいと思います。

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