タイガー薬局の面薬局開業録 TIGER PHARMACIST

はじめに

これまでのコラムでは、物販、SNS、地域活動など、タイガー薬局が開業後に取り組んできたことをご紹介してきました。今回は少し視点を変えて、「人を雇うこと」について書いてみたいと思います。独立を考えている方にとって、採用や雇用はかなり大きなテーマだと思います。「最初から人を雇うべきなのか」「できるだけ一人でやった方がいいのか」「どんな人を採用すればいいのか」そして何より、「人件費を抱えて、本当に経営していけるのか」

私自身、開業前から人を雇うつもりではいましたが、実際に雇用してみて初めて分かったことがたくさんありました。今回は、タイガー薬局で初めて薬剤師と事務員を雇用した時のことと、その後に直面した資金繰りについて、できるだけ正直にお話ししたいと思います。

 

1.最初から薬剤師1名を雇うつもりだった

タイガー薬局を開業する時、私は最初から薬剤師を1名雇用するつもりでした。理由は、在宅医療をやる以上、自分一人だけで動く体制には限界があると考えていたからです。たとえば、自分が新型コロナウイルス感染症やインフルエンザに罹患して動けなくなるかもしれません。学会や研修で県外へ行くこともあります。家族との時間も取りたい。そう考えると、「自分がいなければ在宅訪問が止まる」という体制にはしたくありませんでした。もちろん、一人で経営すれば人件費はかかりません。ただ、在宅医療に力を入れたい薬局としては、誰か代わりに動ける薬剤師がいることも必要だと考えていました。

もともとは、知人の薬剤師に声をかけており、その方に来てもらう予定でした。ところが、最終的には現在の職場に残ることになり、その話はなくなりました。その時は、「しばらく一人薬剤師でやるしかないかな」とも考えました。そんなタイミングで、前職の部下だった薬剤師から「働きたい」と声をかけてもらいました。その方自身も事情があり、これまでと同じ働き方を続けることが難しくなっていて、短時間勤務やフレックスのような柔軟な働き方を希望していました。タイガー薬局側としても、開業直後からフルタイム薬剤師1名分の人件費を抱えるのは大きな負担です。一方で、その方の希望する働き方であれば、人件費をある程度抑えることができます。しかも、前職時代から一緒に働いており、在宅医療についてもかなり経験がある薬剤師でした。というより、前職時代に私がみっちり教えてきた人でもあります(笑)。仕事ぶりも人柄も分かっている。在宅医療も任せられる。働く側は柔軟な勤務ができて、薬局側も必要な時間に力を借りられる。結果的には、とても良い形でスタートすることができました。

一方で、開業前には先輩経営者の方々から、「最初から人を雇うのはリスクだよ」「面薬局なんだから、最初から患者さんが来るわけじゃない」「できるだけ一人でやった方がいい」と言われていました。今振り返ると、言っていることは本当によく分かります。面薬局は、開業初日から処方せんが何十枚も来るわけではありません。売上がまだ読めない段階で固定費として人件費を抱えるのは、当然リスクがあります。ただ、その時の私は、「それでも在宅医療をするなら薬剤師は必要だ」と考えました。つまり、人を雇うリスクと、一人でしか動けないリスクのどちらを取るかということだったのだと思います。

 

2.人を雇ったからこそできたこと

実際に薬剤師を雇ってみると、メリットはすぐに感じました。開業直後の4月には、「在宅医療のいろは」の出版記念講演で県外へ出る予定がありました。開業したばかりの薬局を空けることに不安がなかったわけではありません。それでも、薬局を任せられる人がいたからこそ出張することができました。普段の業務でも、2人いる時間帯であれば、一人が薬局に残り、もう一人が在宅訪問へ出ることができます。在宅患者さんのことで悩む症例があれば相談できます。緊急対応が重なった時にも、二人で動けることでより迅速に対応できます。そして私自身も、学会へ行ったり、家族旅行へ行ったりすることができました。人を雇って良かったと感じたのは、単に「仕事が楽になった」からではありません。自分が薬局にいなくても、薬局として動ける時間ができたことが大きかったと思います。

そして、開業後の2025年5月には事務員も雇用しました。きっかけは、4月分のレセプト請求でした。実際に請求業務をやってみると、ミスも多く、かなり負担に感じました。日々の業務でも、調剤以外の事務作業に時間を取られることが増えており、それがストレスにもなっていました。同時に、在宅患者さんも少しずつ増えていました。「このペースで在宅患者が増えていくのであれば、事務員を雇ってもいいだろう」と考えました。そこで、以前同じ職場で働いていたものの、すでに退職して求職中だった方に声をかけました。その方も調剤薬局での勤務経験があったため、レセプト請求や事務作業をすぐに任せることができました。

これによって、私自身がレセプトや細かな事務作業に追われることはかなり減りました。さらに、その事務員さんはイラストを描くのが非常に上手でした。そのため、店頭の物販POPなどもきれいに作ってもらえるようになりました。これは完全に嬉しい誤算でした。

 

3.そして知った「人を雇うリスク」

ここまでは、人を雇って良かった話です。実際、業務はかなり楽になりました。ところが、経営面ではここから少しずつ厳しくなっていきました。在宅患者さんは増えていましたが、途中から増加が止まり、数カ月横ばいになりました。処方せんも、思っていたほど伸びませんでした。開業から2025年7月までは、自分の役員報酬をゼロにしていました。そのため、それまでは会社から出ていくお金をある程度抑えることができていました。しかし、8月から自分の役員報酬を支払い始めると、会社の残高が急激に減っていきました。薬剤師の人件費。事務員の人件費。自分の役員報酬。家賃や固定費。そして医薬品代。ある時には、月末の医薬品代を支払えるかどうかというところまで、会社の残高が減りました。この時に初めて、「これが先輩たちが言っていた、人を雇うリスクなんだ」と実感しました。

幸い、タイガー薬局の場合は、採用した二人とも前職から知っている人でした。そのため、人間関係やコミュニケーションで大きく困ったことはありませんでした。これは本当に恵まれていたと思います。私が雇用して一番強く感じたのは、人間関係よりも、「毎月必ず給与を支払わなければならない」という責任でした。自分一人であれば、「今月は少し自分の取り分を減らそう」で済むかもしれません。でも、人を雇えばそうはいきません。売上が良くても悪くても、スタッフには給与を支払います。スタッフにも生活があります。経営者として、自分だけが食べていければいいわけではない。スタッフの給与を支払い、薬局を存続させるために、しっかり売上を作らなければいけない。雇用したことで、その責任を改めて実感しました。

 

4.資金繰りを見直し、「一番の金ピカ」を考えた

今振り返ると、もう一つ大きな反省があります。それは、資金繰りについてかなりどんぶり勘定だったことです。当時は、「今月末の支払いができるか」くらいしか見ていませんでした。数カ月後にどれくらいのお金が残るのか。売上が横ばいだった場合に、いつ資金が底をつくのか。人件費を支払った後、会社にいくら残るのか。そういったことを、きちんと数字にして把握していませんでした。

資金繰りが厳しくなってからは、自分の貯金を切り崩したり、父からお金を借りたりしました。さらに、金融機関から運転資金として追加融資も受けました。税理士さんからは、役員報酬を見直してはどうかという提案もありました。ただ、家庭の生活費もギリギリだったため、役員報酬を減らすところまではできませんでした。そこで、ようやく資金繰り表を作ることにしました。毎月の入金と支払いを整理し、少し先まで資金がどう動くのかを見る。今では当たり前のことですが、その時になってようやく、「経営は利益だけではなく、現金がいつ残るのかを見ないといけない」ということを実感しました。

資金繰りが厳しくなったことは、スタッフにも共有しました。ただ、「お金がないから頑張ろう」だけでは意味がありません。売上を増やすために、タイガー薬局として何を強みにしていくのかを考える必要がありました。そこで2025年の年末に、スタッフと一緒に、「自分たちの一番の金ピカは何?」という話をしました。タイガー薬局には、物販もあります。地域活動もしています。さまざまなことに挑戦しています。でも、「この薬局が一番強いものは何なのか」と考えた時に、出した答えが在宅医療でした。そこで2026年は、「一番の金ピカは何?」をスローガンに、在宅医療により特化していくことを決めました。

雇用によって資金繰りが苦しくなったことは、決して良い経験だったとは言えません。でも、その経験があったからこそ、「この薬局は何で稼ぐのか」「何を強みにするのか」を本気で考えるようになったのだと思います。

 

5.もう一度戻っても、人は雇う

ここまで読むと、「やっぱり最初から人を雇わない方が良かったのでは?」と思われるかもしれません。でも、今振り返っても、私は雇用したこと自体は間違っていなかったと思っています。もしもう一度開業前に戻ったとしても、薬剤師も事務員も雇うと思います。薬剤師がいたから在宅医療に動けた。学会にも行けた。家族との時間も作れた。事務員がいたから、レセプトや事務作業ではなく、自分にしかできない仕事に時間を使うことができた。そう考えると、人を雇った価値は十分にありました。ただし、もう一度やるのであれば、同じようにはしません。もっと早い段階から、「タイガー薬局は在宅医療でいく」と明確にして、営業にも動くと思います。

そして、人を雇う前に、もっと現実的な資金繰りを試算します。売上が予定どおり増えるケースだけではなく、「半年間、売上が横ばいだったらどうなるか」「この人を雇ったら毎月いくら出ていくのか」「自分の役員報酬を払った後にいくら残るのか」というところまで考えると思います。

これから独立して、初めて人を雇う方に伝えるとしたら、まず言いたいのは、人件費は本当にバカになりません。ということです。私は開業前、先輩経営者から何度も「最初から人を雇うのはリスクだよ」と言われていました。その時は理解しているつもりでした。でも、実際に会社の残高が減っていく経験をして、初めて本当の意味が分かりました。先輩の助言は、ちゃんと聞いた方がいいです(笑)。その上で、人を雇うのであれば、雇用した後に会社にいくらお金が残るのかを、必ず確認した方がいいと思います。売上が伸びる前提だけで考えない。思ったほど処方せんが増えなかった場合。在宅患者さんが増えなかった場合。そうしたケースも含めて考える。これは自分自身への反省でもあります。

もう一つ大切だと思うのは、採用する人との相性です。私の場合は二人とも前職から知っている人だったため、ある程度人柄や仕事の進め方が分かっていました。しかし、初めて会う人を採用する場合はそうはいきません。小さな薬局では、一人のスタッフとの関係が職場全体に与える影響はかなり大きいと思います。だから最初の採用では、能力以上に、一緒に働きやすいか、きちんとコミュニケーションが取れるか、同じ方向を向けそうかという部分を重視してもいいのではないかと思います。能力については、最初から期待しすぎないくらいでもいいかもしれません。仕事は少しずつ覚えてもらうことができます。でも、人間関係がうまくいかなければ、小さな組織では本当に大きな問題になります。

独立して薬局を作った時点で肩書き上は経営者になりましたが、本当の意味でその責任を感じたのは、人を雇ってからだったように思います。スタッフの給与を支払い、薬局を続けていくためには、売上を作り、資金を管理し、「この薬局は何を強みにしていくのか」を考え続けなければなりません。人を雇ったことで背負う責任は増えましたが、その分、一人ではできなかったこともたくさんできるようになりました。だから、もしもう一度開業するとしても、私は人を雇うと思います。ただし、今度はもっと慎重に。先輩の話をしっかり聞いて、資金繰りもきちんと考えてから(笑)。人を雇うことは、一緒に薬局を作っていく仲間を増やすこと。今回の経験を通して、雇用の難しさと、それ以上の価値を学びました。

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