はじめに
前回は、タイガー薬局の在宅医療についてご紹介しました。在宅医療はタイガー薬局の大きな柱の一つですが、開業してからもう一つ力を入れていることがあります。それが「物販」です。
薬局で物販というと、OTC医薬品や健康食品をイメージする方が多いかもしれません。しかし、タイガー薬局では野菜やチーズ、馬刺しまで販売しています。なぜ薬局でそこまでするのか。今回は、物販に対する考え方や、開業してから学んだことについてお話ししたいと思います。
1.物販なんて必要ないと思っていた
正直に言うと、私は物販に関してはド素人です。前職でも少し関わったことはありましたが、「物販はあまり売れない」という印象しかありませんでした。処方せん調剤や在宅医療の方が重要であり、物販に大きな可能性を感じていたわけではありませんでした。しかし、実際に開業して考え方は大きく変わりました。
タイガー薬局は門前薬局ではなく面薬局です。処方せんを待つだけでは地域との接点は増えません。どうすれば地域の方に気軽に立ち寄ってもらえるのか。その答えの一つが物販でした。
また、日本薬局協励会に入会したことも大きな転機でした。そこには相談薬局として地域に根付いている薬局が数多くあり、商品を売るのではなく「相談を受ける薬局」という考え方に触れました。相談薬局を目指すなら、OTC医薬品や健康食品の知識も必要です。調剤だけでは学べない世界があり、それが新鮮で楽しく感じられるようになりました。
2.面薬局だからこそ物販が必要だった
私が目指したのは、「地域のかかりつけ薬局」です。昔の薬店のように、
「ちょっと相談したい」
「最近疲れやすくて」
「家族のことで気になることがあって」
そんな時に気軽に立ち寄れる場所にしたいと思っていました。そのためには、処方せんがある時だけ来る薬局ではなく、処方せんがなくても来られる薬局である必要があります。
物販には、その入口としての役割があります。野菜を買いに来る。チーズを買いに来る。健康食品を見に来る。きっかけは何でも構いません。まず薬局に来てもらう。そして会話が生まれる。その中で健康相談や処方せん、在宅医療の相談につながることもあります。
実際、開業してからは物販やSNS、イベント企画が楽しくなりすぎて、前回お話しした在宅医療への注力が少し弱くなってしまった時期もありました。それくらい、地域の方との直接的な交流に魅力を感じるようになったのです。
3.物販で学んだ「信頼」の大切さ
開業当初は、「良い商品を置けば売れる」と思っていました。しかし現実はそう簡単ではありませんでした。日本薬局協励会で長年支持されている商品を導入しても、思うようには売れません。理由は単純でした。
内灘町には過去に協励会薬局がなく、商品の知名度がほとんどなかったからです。つまり、商品そのものの問題ではありません。地域の方が私を信頼しているかどうかが重要だったのです。
ある日、同級生のお母さんが「最近疲れやすい」と相談に来られました。お話を聞くと、家事やお孫さんのお世話で疲れがたまっている様子でした。そこでニンジンエキスを主成分としたOTC医薬品を提案したところ、とても効果を実感され、その後も継続して購入してくださいました。
この経験から学んだのは、物販はモノを売る仕事ではなく、人との信頼関係を築く仕事だということです。良い商品だから売れるのではありません。
この人が勧めるなら試してみよう。
そう思っていただける関係性が何より大切なのだと感じています。
4.野菜やチーズを売る理由
タイガー薬局では、ベジタイガーデーとして定期的に野菜販売を行っています。利益はほとんどありません。それでも続けている理由があります。野菜を買いに来ることが、薬局に来るきっかけになるからです。定期的に顔を出してくださる方もいますし、野菜以外の商品も購入してくださる方もいます。在宅患者さんにお届けすると喜ばれることもあります。
また、「薬局で野菜も売っているんですね」という会話が生まれることも少なくありません。最近ではウチナダチーズや馬刺しも取り扱っています。特に馬刺しは、この地域では取り扱っている店舗が少なく、「薬局で馬刺しが買えるなんて珍しい」と驚かれることもあります。普段は少しずつ売れていく商品ですが、セールを行うと一気に売れることもあり、少しずつ地域に認知されてきたと感じています。
また、商品の魅力を伝えるためのPOPにも力を入れています。タイガー薬局の事務スタッフはイラストを描くことが得意で、手書きのPOPをたくさん作ってくれています。
そのPOPを見て、
「これかわいいね」
「誰が描いたの?」
と声をかけていただくこともあります。商品を売るためのPOPですが、それ以上に会話のきっかけになっているのです。物販を続けていて感じるのは、商品そのものよりも、人と人との会話を生み出すことに価値があるということです。
5.今後の展望
正直なところ、粗利だけを考えれば処方せん調剤の方が優れています。それでも物販を続けるのは、商品を売りたいからではありません。処方せんがなくても気軽に立ち寄れる場所を作りたい。地域の方と接点を持ちたい。困りごとを相談してもらえる薬局になりたい。
物販を通じて学んだのは、「良い商品を置けば売れる」のではなく、「信頼される薬局になれば商品は自然と選ばれる」ということでした。タイガー薬局はこれからも、処方せんがなくても気軽に立ち寄れる地域のかかりつけ薬局を目指していきます。
次回は、タイガー薬局が取り組んでいる地域活動についてご紹介します。