はじめに
前回は「なぜ独立したのか」「なぜ面薬局なのか」という背景について書きました。今回は、私が開業までに実際に何をしてきたかを、時系列で紹介します。
ひとつだけ最初にお伝えしておきたいことがあります。私は当初、2025年4月1日開業予定で動いていました。しかし、途中で補助金の条件が変わり、開業を3月へ前倒しすることになります。そのため、後半はややタイトなスケジュールとなっていますが、この記事は「4月開業モデル」として読んでいただければ、より参考になると思います。また今回は、門前ではなく「面薬局」開業という特殊なケースです。物件探しやクリニックとの調整はなく、自分で土地・建物・時期を決める自由度の高い開業でした。私の場合は、開業場所と建物がすでに決まっていたため、物件探しの工程はありません。では、開業工程を順に振り返っていきます。
目次
1.開業準備スタート(4月)― まず「どんな薬局にしたいか」を決める
独立を決めた段階で、改めて頭の中にあったイメージを言語化しました。私が掲げたコンセプトは
「外来から在宅まで、地域で暮らす人を支え続ける薬局」
面薬局として開業する以上、「処方箋が来るからやる薬局」ではなく、住民に選ばれる薬局である必要があります。仕事柄、在宅医療のニーズと潜在需要は把握しており、在宅専門にする選択肢もありました。しかし、前回の記事でもお伝えしましたが、私のやりたいことは最期だけでなく、もっと前から関わることでした。だからこそ、外来と在宅を両軸で支える「ハイブリッド型の面薬局」を選びました。この段階での言語化は、ロゴ、外観デザイン、調剤室のレイアウト、事業計画など、後のあらゆる意思決定の軸になります。
2.計画づくりのフェーズ(5月)― 事業計画と「辞める」と言う勇気
次に取り掛かったのは事業計画書づくりです。 これは後の融資で非常に役立っただけでなく、自分の考えを整理し、開業の軸を固める作業にもなりました。
またこの時期、「スタートアップビジネスプランコンテストいしかわ」に応募し、薬局事業だけでなく、在宅医療研修・教育・派遣事業まで含めた計画にして提出しました。この経験が、のちの融資面談で良い材料となります。
同時に、当時所属していた会社の社長へ退職の意向を伝えました。役職があったこと、業務影響が大きいことを考え、早めに伝えることが誠実だと判断したからです。驚かれましたが、最終的には「応援する」と言っていただいたことは忘れません。
3.カタチが現れ始める時期(6〜8月)― 名前、設計、業者、金融機関が動き始める
この時期は「準備が動き始めるフェーズ」です。
6月:法人名・薬局名・設計スタート
- 法人化の決断
- 法人名・薬局名決定(最終決め手は娘の推し)
- 仮図面作成→複数業者へ相見積もり
- レセコン・薬歴比較
- 税理士契約
法人化するかどうかは議論が分かれるところですが、後から法人成りするほうが手続きが大変と聞いたので、私は法人で進めました。
設計では、まず仮図面をつくり、複数業者に相見積もりを取る準備をしました。相見積もりは必ず取るようにしています。
レセコンや薬歴の比較、税理士契約などもこの時期に進めています。
7月:ブランドと金融が動き始める
- ロゴ制作開始
- 地銀と初面談 → 事業計画書が高評価
- 在庫管理システム検討(結果的に不要)
- レセコン候補決定
ロゴは薬局の旗印になるものであり、妥協しないほうがいい。看板・名刺・内装・Webすべてに関わるため、私はデザイン会社へ依頼しました。
また、地方銀行と初めての融資面談。事業計画書を持参したところ、「ここまで準備しているなら十分」との評価。この一言で安心したのを覚えています。
8月:法人設立・信用金庫との面談
- 法人設立
- 信用金庫と面談 → 「地域の薬局」に最も理解があった
- 卸3社と面談
- 保健所で図面事前確認(これは必須!)
- ロゴ完成
法人を設立。司法書士に依頼しましたが、自分でやれば節約できたな…と後悔しています。
次に信用金庫と面談。地域密着型金融の性質上、面薬局開業の考え方と非常に相性が良かったため、ここで融資を受けることに決めました。
さらに、保健所へ図面の事前確認に行きました。構造的な不安点をこの段階で潰せたことで、後の工事段階で混乱が起きずに済みました。
4.決断と実行のピーク(9〜12月)― 契約・融資・デザイン・工事・退職
ここから準備は計画 → 実行フェーズに入ります。
9月:改装業者決定と行政とのつながり
- 改装業者決定(価格より“信頼”で決める)
- 創業塾受講(→補助金申請条件)
- 自立支援等の申請スケジュール把握
複数社から相見積もりを取り、ようやく改装業者を決定しました。価格も大事ですが、私が最終的に重視したのは、担当者の対応と誠実さでした。「話しやすいか」「質問しても嫌な顔をされないか」——これらはその後の細かな連絡が必要になったりする点において重要な判断だったと思います。
さらに、町の創業塾へ参加。ここで学んだ内容が直接役立つこともありましたが、それ以上に大きかったのは、修了証が補助金の申請要件になる、創業者として行政と接点が生まれるという点でした。
10月:金融機関との対話と、設備計画の具体化
- 日本政策金融公庫と面談(信用金庫と協調融資へ)
- 什器選定・調剤機器メーカーと図面調整
- ビジネスコンテストで地域活性化賞受賞
日本政策金融公庫との面談がありました。信用金庫単体では希望額まで届かず、協調融資という形に。ここで役に立ったのは、前回のビジネスプランコンテスト応募経験でした。「第三者に見せる前提で書いた事業計画書」は、金融機関との対話に耐えられます。
同時に、什器や調剤機器の選定を開始しました。調剤台・分包機・レセコン……何が必要で、何が不要か。そして調剤機器メーカーと調剤室内の調剤から外来までの服薬指導、もしくは在宅訪問への動線について一緒に考えながら図面を作成してもらいました。
この月、ビジコンでは惜しくも本戦には進めませんでしたが、「地域活性化賞」をいただき、この受賞は金融機関との信頼形成に大きく影響しました。
11月:融資確定と、スケジュール前倒しの決断
- 融資決定
- 法人口座開設・必要印鑑購入
- 電話・ネット回線工事依頼
- 開業を4月→3月に変更
融資が正式に決まりました。金利条件は決して良いものではありませんでしたが、「創業塾修了」、「コンテスト受賞歴」、「明確な事業計画」が評価されました。ちなみに社名スタンプはこのタイミングで作成しましたが、本来もっと早め(法人設立したくらい)に作成すれば書類の記載の負担が減ります。
そしてこのタイミングで、開業時期を4月→3月へ前倒しすることになります。理由は単純で、町の創業補助金が「3月開業」条件だったからです。この変更により改装業者と保健所には迷惑をかけることになってしまったことを申し訳なく思っています。
また、重要なことはNTTへの電話・ネット回線工事の依頼です。実際、NTT回線の工事予約は驚くほど取りづらく、希望日の3ヶ月前には連絡しておくことを強くお勧めします。
12月:工事開始、融資実行、そして退職
- 解体→改装工事スタート
- セキュリティ会社比較
- 退職
この月から、建物の解体工事が始まりました。コインランドリー時代の設備が撤去され、壁が壊され床が剥がれていくと、ようやく「戻れない地点」を越えたと実感します。
融資も実際に実行され、初めて大きな金額が動きました。ここからは「計画」ではなく、完全に「経営」のフェーズです。さらに、13年働いた会社を退職し、経営者としての意識を本格的に持つようになりました。
5.走りながら整える時期(1〜3月)― 申請・検査・仕上げ・広報・開局
ここからは開業準備の集大成です。手続き漏れ、書類不足、設置遅延、工事のズレ——すべてが開業日に影響します。
1月:許可申請とオープン準備が並行して進む
- 薬剤師会加入
- オンライン資格確認端末手配
- 内覧会・オープンイベント企画
- ノベルティ・広報準備
- 薬局開設許可申請提出(1/30)
行政手続きは「期限」がすべてです。特に薬局開設許可が遅れると芋づる式に遅れます。工事の進捗と立ち入り検査の日程を細かく調整していました。
また、このとき1点申請漏れしていたことに気が付きました。「オンライン資格確認の受付番号情報提供依頼書」です。本来であれば「開局時2ヶ月前の3日(3日が休日なら前日)までに提出」が必要でしたが、すっかり失念していました。3月開業であれば12月末までにしなければならなかった。あわてて提出。結果的には間に合いましたが、焦りました。一方、確認端末は中古のものをヤフーオークションで探して安く購入。これはレセコン設置までに間に合えば大丈夫です。
同時にオープン日に合わせて内覧会やオープンイベントの企画、ノベルティや広報の準備を進めました。
2月:検査・許認可・最終仕様決定
- 保健所立入検査→許可証交付
- 厚生局・労災・自立支援・在宅加算など各種申請
- 設備搬入・看板設置
- POS・Wi-Fi・セキュリティ接続
- ポスティング・地域PR開始
2月10日に保健所立入検査。一部設備不足により、再検査対応になりました。これは焦りましたが、予定通りに開設許可証を発行してもらいました。許可証が出ると、厚生局・労災・自立支援などの申請が怒涛のように続きます。自立支援医療の申請、とくに育成医療・更生医療は年4回審査なので、開業前に知っておく必要があります。
設備面では什器搬入、看板設置、セキュリティ導入、調剤室レイアウト最終化と進み、ここまで来ると、完全に建物が「薬局」となりました。
3月:最終仕上げと、地域への開局宣言
この月は、開局前の広報・関係者挨拶・運用テストのフェーズです。
- 写真撮影/挨拶回り/チラシ配布
- 内覧会・オープンイベント実施
開業をひと月前倒ししたことであわただしくなりましたが、在宅医療だけ先に取り組むことができ、オペレーションを確認できたことは非常に良かったです。内覧会とオープンイベントを経て、ついに
3月30日:タイガー薬局は正式に開業しました!
6.まとめ ― 開業準備で学んだこと
開業準備を振り返ると、何も知らないことばかりでしたが、多くの方に支えていただき、無事に開業までたどり着くことができました。幸い、私には相談できる方が多くおり、その存在は本当に心強いものでした。それでも、最後は自分で調べ、聞き、動く。その積み重ねだけで、不安は驚くほど軽くなっていきます。経営者としてはまだひよっこですが、この一連の準備を乗り越えたことで、ようやくスタートラインに立てたと感じています。
私は前倒しで走り切りましたが、正直おすすめはしません(笑)ただ、あの決断がなければ補助金は受けられず、今の形にもなっていない。だから今は後悔していません。
そして何より、この経験が「これからの挑戦を支える力」になったと実感しています。
7.おわりに
ここまで、独立を決めてから開業までの約1年間を振り返ってきました。
振り返って書くと、どうしても一つひとつの出来事は薄い内容に見えてしまいますが、実際にはその時々で悩み、考え、決断してきたことの連続でした。
次回はその中でも、店舗のレイアウトや図面づくりに焦点を当て、面薬局として開業するうえで何を考え、どんな点を重視したのかを掘り下げてみたいと思います。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。