薬局経営に必要な資格とは?申請の要件や開業の基礎知識を解説
薬局の開業を検討している方にとって、必要な資格や申請手続き、開業までの流れは複雑で分かりにくいものです。特に、薬剤師資格の有無が起業にどのように影響するのか、どのような開業許可を得ればよいのか、資金はどれくらい必要なのかなど、疑問や不安を抱える方も多いでしょう。
当記事では、薬局経営に必要な資格や申請の要件、開業までの基礎知識を分かりやすく解説します。独立開業を考えている方は、ぜひ参考にしてください。
1.薬局経営に薬剤師資格は必要?
薬局を開業・経営するにあたって、必ずしも薬剤師資格を取得している必要はありません。経営者としての立場、いわゆる「オーナー」であれば、無資格でも薬局を立ち上げることは可能です。
1-1.ただし薬局経営のためには薬剤師の配置が必要
薬局開業の際、経営者自身が薬剤師の資格者である必要はありませんが、薬局内には常時薬剤師を配置することが法律で義務付けられています。たとえば、調剤業務を行う場合、薬剤師は1日平均処方箋40枚に対して1人の割合で必要です。眼科・耳鼻科・歯科などの場合は60枚に1人が基準とされています。
そのため、薬剤師資格を持たない経営者は、配置基準を満たす薬剤師を雇用しなければなりません。従業員として薬剤師を雇う分だけ人件費がかかるため、経営には一定の資金力が求められます。なお、薬剤師免許を持っている場合は、開業当初は自らが管理薬剤師を兼ねることで人件費を抑え、経営が安定してから管理薬剤師を雇う方法もあります。
2.薬局経営の要件とは
薬局を経営するには、地域によって細かな違いはあるものの、「薬局開設許可申請」と「保険薬局指定申請」の2つが一般的な要件として求められます。ここからは、薬局経営の要件について詳しく説明します。
2-1.薬局開設許可申請書
薬局開設許可申請書とは、薬局を開業するにあたり、都道府県知事の許可を得るために、所轄の保健所へ提出する書類です。申請後、設備や人員の体制が基準を満たしているか審査されます。東京都の場合、以下の要件が設けられています。
<設備要件の例>
- 販売対象者が容易に出入りできる構造
- 面積は基準面積の90%以上
- 遮断可能な閉鎖構造
- 冷暗所・鍵付き保管庫・区分された陳列設備
- 調剤に適した衛生的な環境と給排水設備
<人的要件の例>
- 薬剤師は開店中常時1名以上を配置
- 処方箋数に応じた適切な薬剤師数を配置
- 特定業務を行わない薬剤師は事前届け出
- 従事者の資質向上を図る研修受講
<体制要件の例>
- 薬剤師不在時の対応体制・帳簿記載
- 管理者による安全使用・販売手順の整備
- 偽造医薬品防止策や業務手順書の策定
- 薬局間連携体制の整備と記録保持
薬局開設許可申請書を提出する際は、店舗の平面図や薬剤師の免許証の写しなどの書類も添付する必要があります。詳細については都道府県のホームページで確認してください。
2-2.保険薬局指定申請
保険薬局指定申請とは、薬局が健康保険制度のもとで保険調剤を行うために、厚生労働省の地方厚生(支)局を通じて保険薬局の指定を受けるための手続きです。申請には、薬局開設許可証を取得した上で、保険医療機関・保険薬局指定申請書や各種添付書類の提出が求められます。地域によって異なりますが、基本的に営業開始希望月の前月上旬までに行う必要があり、指定は原則として申請の翌月1日付で発効します。
<主な添付書類>
- 指定希望日記載票
- 開局許可証の写し
- 薬剤師の登録情報一覧
- 管理薬剤師・保険薬剤師の免許証写し
- 平面図・周辺図・薬局外観写真
- 使用契約書の写し(賃貸の場合)
- オンライン資格確認の導入計画書または猶予届
- 社会保険・労働保険への加入確認票
3.薬局の新規開業に必要な資金
薬局を新規開業するには、600万円~3,000万円程度の資金が必要とされています。土地・建物の確保や調剤設備の導入、薬局開設の申請費用、広告宣伝費に加え、開業後3か月分程度の運転資金なども含むと、資金計画には600万円~3,000万円ほどの初期費用を見込むとよいと言われています。土地から探して建物を新築する場合は、2,500万~3,000万円かかる可能性もあります。
M&Aによる薬局の事業承継を活用すれば、薬局開業資金を大幅に抑えることが可能です。利益が落ち込んでいる薬局の譲渡案件などでは、薬剤在庫の引き継ぎ費用と数百万円の手数料で開業できるケースもあります。条件が合えば、コストを抑えてスムーズに開業できる選択肢となるでしょう。
4.薬局の新規開業までの流れ
薬局は、物件の確保から許可申請、開業準備まで、一定のステップを踏むことで開業が可能です。ここからは、薬局の新規開業におけるおおまかな流れを解説します。
4-1.【開業半年前】開業場所や物件を決める
薬局を新規に開業する際、最初のステップは立地の決定と物件の確保です。競合薬局や医療機関の有無、地域の人口構成などを考慮して情報収集し、最適な開業場所を選定しましょう。特に、門前薬局を目指す場合は、近隣のクリニックや病院の診療科目との相性も重要です。
また、調剤室や待合スペースなど、薬局としての設備を整備できる物件であるかも確認が必要です。この段階で内装業者と相談し、平面図や求積図などの作成に着手しておくと、後の申請もスムーズになります。
4-2.【開業2か月前】保健所に薬局開設許可申請書を提出する
開業予定日の2か月前を目安に、保健所へ「薬局開設許可申請書」を提出します。添付資料には薬局の平面図や求積図、登記事項証明書などが必要です。この時期に麻薬小売業の許可申請も同時に行っておくと手続きが効率的です。
各種申請書類は市区町村の保健所のホームページからダウンロードできます。保健所に相談しながら、申請内容に不備がないか確認しましょう。許可が下りるまでに約1~2週間かかることを見込み、余裕を持って準備を進めることがポイントです。
4-3.【開業1か月半前】内装工事後に保健所の検査を受ける
開業の1か月半前には、薬局の内装工事を完了させた上で保健所の基準調査を受けます。調査では、衛生面や構造面が薬局として適切であるかが確認されます。この時点で調剤室や待合室、調剤機器類(分包機、電子薬歴など)の準備が整っていることが求められます。
検査の日程は保健所の担当者と事前に調整し、必要書類を整えて臨むようにしましょう。問題がなければ、7~10日ほどで開設許可が下り、「薬局開設許可証」が交付されます。
4-4.【開業1か月10日前】厚生局に開設届・保険指定申請書を提出する
薬局開設許可証を取得したら、速やかに厚生局に「開設届」と「保険指定申請書」を提出します。保険薬局として営業するには、厚生局による審査を通過し、指定を受ける必要があります。指定審査は毎月20~25日頃に行われ、通過すれば翌月1日から保険薬局としての営業が可能になります。
したがって、たとえば10月1日に開業したい場合は、9月10日頃までに申請を完了させる必要があります。保険指定が下りるまでは「保険調剤」などの表示を掲げることはできないため、広告を出す際には注意が必要です。
まとめ
薬局経営者に薬剤師資格は必須ではないものの、薬剤師の常時配置が法的に義務付けられており、開業時には人員計画も重要です。薬局を開業するには、「薬局開設許可申請」と「保険薬局指定申請」の2つの行政手続きが必要となり、それぞれに多くの添付書類や審査が伴います。
また、開業費としては600万円~3,000万円程度を見込んでおく必要があり、物件取得や内装、設備導入、人件費、運転資金を含めて計画的な資金準備が不可欠です。申請の不備や準備不足があると開業日が遅れるリスクもあるため、余裕を持って開業計画のスケジュールを組みましょう。