薬局の開業資金はいくら必要?資金調達の方法と審査のポイントも
経営者として薬局を開業したいと考えたとき、まず直面するのが「いくらかかるのか」という資金の問題です。開業資金の相場は1,500万〜2,000万円とも言われますが、物件の形態やエリア、開業方法によって金額は大きく変わります。また、自己資金だけでは足りない場合が多く、金融機関の融資や公的制度の利用は基本的に欠かせません。
当記事では、薬局開業に必要な資金の内訳や調達方法、費用を抑える実践的なポイントを解説します。自身の状況に合わせて無理なく開業準備を進められるよう、具体的な選択肢と対策を紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。
1. 薬局の開業資金の相場は?
薬局の開業資金は、約1,500万〜2,000万円が相場です。都市部でテナントを借りて開業する場合、内装や設備、薬剤の初期仕入れなどを含めると、1,500万〜2,000万円前後の費用が必要になると考えておくとよいでしょう。
ただし、立地や物件の状態、開業形態によって、薬局の開業に必要な資金は大きく異なります。たとえば、地方の居抜き物件を活用して500万円程度で済むケースもあれば、土地の購入と薬局の建築で3,000万円以上かかるケースもあります。また、融資を受ける際は総資金の20〜30%程度の自己資金を準備するのが一般的です。
2. 薬局の開業に必要な資金と内訳
薬局を開業するには、大きく分けて「設備資金」「開業資金」「運転資金」の3つの資金が必要です。ここからは、それぞれの内容と費用の目安について詳しく説明します。
2-1. 設備資金
設備資金とは、物件の契約費用や内装・外装工事費、調剤に必要な機器や備品の購入費など、店舗を構えるための資金を指します。立地や物件の状態によって、金額に幅があります。
内訳 | 詳細 | 金額イメージ |
---|---|---|
敷金・礼金 | 店舗用物件を借りる際に必要 | 約100万~200万円 |
仲介手数料 | 不動産会社に支払う契約手数料 | 約20万~40万円 |
保証金 | 賃貸契約時に保証会社へ支払う費用 | 約30万~80万円 |
内装・設備工事費 | 調剤室・待合室・電気・水道の配線配管など | 約200万~500万円 |
看板設置費 | 外観や認知性向上のための看板費用 | 約10万~50万円 |
機器・備品購入費 | 調剤台・分包機・レジ・PC・FAX・レセコンなど | 約200万~300万円 |
内訳の合計金額 | 約560万~1,170万円 |
スケルトン物件を一から内装する場合は費用がかさむ一方、居抜き物件を活用すれば初期費用を大幅に抑えられる可能性があります。予算に合わせて立地選定と設備投資の計画を進めましょう。
2-2. 開業資金
開業資金とは、薬剤の初期仕入れ、人材採用、広告宣伝など、薬局の営業を始める前段階で必要となる資金のことです。法人を設立するのか、個人事業主として運営するのかによって金額に幅があります。
内訳 | 詳細 | 金額イメージ |
---|---|---|
登記・定款作成費用 | 株式会社・合同会社設立時に必要な法定費用 | 約6万~15万円 |
印鑑費用 | 法人用実印・銀行印・角印の作成や印鑑証明の取得費用 | 約1万~2万円 |
資本金 | 会社設立時に必要 | 任意(目安:約100万〜) |
初期在庫の仕入れ費 | 医薬品・一般薬の初期在庫の購入費用 | 約200万~900万円 |
人材採用費 | 薬剤師・スタッフの採用にかかる広告・紹介手数料など | 約30万~100万円 |
広告宣伝費 | 折込チラシ・WEB広告・開業ノベルティなど | 約10万~100万円 |
内訳の合計金額 | 約260万~1,120万円 |
開業資金は、安定した営業開始の土台を作る役割を担います。法人化する場合は登記や印鑑など法的な手続きも必要になり、個人開業とは異なる準備が必要です。また、薬剤の欠品は信用問題に直結するため、仕入れは十分な余裕をもって行うようにしましょう。
2-3. 運転資金
運転資金とは、薬局の営業を継続するのに必要な日常的な支出のことを指します。固定費と変動費が混在し、月々の収支管理に直結する項目です。小規模な薬局では数百万円、中規模以上で数千万円を見込むとよいと言われています。
内訳 | 詳細 | 金額イメージ |
---|---|---|
仕入費 | 日々の業務に必要な薬剤や備品の追加仕入れ | 約200~300万円/月 |
家賃・共益費 | 店舗や駐車場の賃料・更新料 | 約15万~30万円/月 |
水道光熱費 | 電気・ガス・水道など | 約5万~10万円/月 |
人件費 | 給与、社会保険、福利厚生など | 約50万~150万円/月 |
消耗品・備品費 | 文房具・清掃用品・修理部品など | 約5万~10万円/月 |
通信費 | 電話・インターネット | 約5万~20万円/月 |
宣伝費 | 販促用広告など | 約5万~20万円/月 |
内訳の合計金額 | 約115万~340万円/月 |
開業直後は調剤報酬が振り込まれるまでに1〜2か月のタイムラグがあるため、少なくとも3か月分程度の運転資金を確保しておくと安心です。開業初期は売上が安定しない場合が多く、余裕をもって借入も含めた資金繰り計画を立てることが成功のカギとなるでしょう。
3. 新規開業と承継開業における初期費用の違い
薬局の開業には「新規開業」と「承継開業(M&A)」の2つの方法があります。新規開業では開業費・設備費・運転資金などを合わせて3,000万円以上かかるケースもある一方、承継開業は既存の薬局を引き継ぐ形で開業するため、初期費用を抑えることが可能です。
承継開業においては、「営業権(のれん代)」が発生するのが特徴です。営業権とは、薬局がすでに築いている顧客基盤や収益力に対して支払う価値で、0〜1,000万円程度が相場とされています。そのほかに、薬剤の在庫費用や固定資産代、仲介手数料などが必要になります。
新規開業では、自分の理想とする薬局をゼロから設計・構築できる反面、処方箋枚数が軌道に乗るまでに時間がかかり、収益化までに不安定な時期が生じやすい点がデメリットです。一方で、承継開業はすでに患者さんが付いているため安定した収益を得やすく、設備や内装をそのまま活用できることから、時間・コストの両面で効率的と言えるでしょう。
4. 薬局開業の資金調達方法
薬局の開業には多額の資金が必要となるため、自己資金に加えて融資を活用するケースが一般的です。ここでは、代表的な資金調達先と、それぞれの特徴・注意点について解説します。
4-1. 民間の金融機関
薬局の開業資金を調達する方法の1つに、銀行や信用金庫などの民間の金融機関からの融資があります。信用保証協会の保証を受けずに直接金融機関から資金を借りる方法は、プロパー融資と呼ばれます。プロパー融資は、業者の信用力や経営実績に応じて貸付が判断されるため、開業初期は審査が厳しく、融資を受けにくい傾向にあります。
プロパー融資を利用する際は、収支計画や資金繰りの見通しを盛り込んだ説得力のある事業計画書を作成し、金融機関に薬局の将来性を明確に伝えることが重要です。また、融資後も金融機関との関係を良好に保つために、定期的な経営状況の報告などの誠実な対応が求められます。そうした信頼関係の積み重ねが、将来的な追加融資や支援の受けやすさにつながります。開業時はプロパー融資以外の選択肢も併せて検討し、無理のない資金計画を立てるようにしましょう。
4-2. 日本政策金融公庫
日本政策金融公庫は、政府が出資する公的な金融機関です。民間の金融機関では対応が難しい創業初期の事業者や小規模企業、新規開業者を対象に資金調達を支援しているため、薬局開業時の資金調達手段として有力な選択肢になるでしょう。営業実績が乏しい段階でも申請できる融資制度には「創業融資」や「新規開業・スタートアップ支援資金」などが挙げられます。
特に、新規開業・スタートアップ支援資金は最大7,200万円までの融資が可能で、原則として無担保・無保証人、利率最大0.65%引下げといった優遇措置が適用されます。返済期間は設備資金で20年以内、運転資金で10年以内と長期に設定することも可能です。また、女性・若者・シニア・地域創生などの条件に該当すれば、より有利な利率が適用される場合もあります。融資を受けるには自己資金の一部保有と信頼性の高い事業計画書の提出が求められますが、一般の民間金融機関に比べると融資のハードルは低いため、創業段階での資金調達に悩む方にとって日本政策金融公庫の制度は心強い支援となるでしょう。
4-3. 制度融資
制度融資は、地方自治体・金融機関・信用保証協会が連携して提供する公的支援型の融資制度です。信用保証協会が保証人となるため、実績の乏しい創業時でも比較的利用しやすく、薬局経営者を目指す個人事業主や中小企業にとって魅力的な選択肢となるでしょう。固定金利や利子補給制度、据置期間の設定など、事業者にとって有利な条件が整っているケースも多く見られます。
ただし、制度融資を利用するには金融機関・自治体・信用保証協会それぞれが審査を行うため、申し込みから融資実行までに時間がかかる点には注意が必要です。また、保証協会を通じて融資を受ける関係から、金利とは別に保証料が発生することも理解しておきましょう。制度融資の内容や条件は自治体によって異なるため、詳細は各自治体の窓口や公式サイトを確認してください。
5. 薬局開業資金を借りる際の審査のポイント
薬局の新規開業資金や独立資金を融資で調達するには、まず金融機関などの審査に通過する必要があります。ここでは、審査を通るために押さえておきたいポイントを解説します。
5-1. 説得力と実現性のある事業計画書にする
どの融資審査でも重視されるのが、根拠のある事業計画書です。薬局の開業にあたっては、「どのエリアで」「どのような患者層を対象に」「何を強みにして運営するのか」を明確に記載しましょう。たとえば、開業予定地が内科クリニックに隣接しているなら、その診療科に合わせた薬剤構成や処方箋の想定枚数を盛り込み、見込売上を裏付ける情報として提示します。
また、収支計画では1年目から3年目までの売上推移、経費内訳、黒字化のタイミングを数値で示すことが大切です。設備資金や運転資金など、融資を希望する金額の使途を具体的に記載し、その内訳に基づいて合理的な金額設定であることを示します。併せて、競合薬局の状況や、地域の処方箋枚数の動向なども記載すると、開業計画の実現性がより高く評価されやすくなるでしょう。
5-2. 家族の同意など客観的な視点も入れる
薬局の開業資金を借りる際には、家族の同意や協力体制が整っているかどうかも審査項目となります。金融機関では、開業後に安定的な経営を継続できるかを判断するため、家族の支援体制についてもヒアリングされるのが一般的です。特に、家族が連帯保証人になる場合や事業に一部関与する場合、同意の有無が信用力に大きく影響します。
また、事業計画書が主観的・独りよがりな内容になっていないかも問われます。そのため、中小企業診断士や商工会議所などの第三者からのアドバイスを受けた上で計画を作成していることを示すと、審査通過の可能性が高まるでしょう。
5-3. 十分な市場調査と情報収集を行う
融資審査においては、開業予定地の市場性を客観的に把握できているかも判断基準となります。近隣の病院やクリニックの診療科目、患者数、医師の評判などの情報を収集し、地域の医療ニーズに即した薬局であると説明できることが求められます。また、競合となる薬局の数や立地、取り扱い薬剤の傾向も調査し、自身の薬局はどのように差別化を図るのかを明確にしましょう。
特に新規開業クリニックと連携する場合、医師の診療実績や患者層、開業の見通しなどを把握すると、将来の処方箋枚数の予測につながります。さらに、今後の法改正や地域医療構想による影響も視野に入れ、薬局として地域社会にどう貢献するかを盛り込むことで、収益性と社会的意義の両面から審査担当者を納得させる材料となるでしょう。
5-4. 将来の従業員の雇用を考えておく
薬局の開業においては、将来的な従業員の雇用計画の立案も審査のポイントの1つです。自身に薬局経営や店舗経営の経験があれば、審査に通る信頼性は高まります。しかし、経験が浅い場合は、経営の弱点を克服するための具体策として、調剤薬局・ドラッグストアでの実務経験を持つ薬剤師や医療事務スタッフを確保する計画を示すことが必要です。
また、患者数に見合った適切な人員配置や雇用形態のバランス、人件費の見通しなどを含む採用計画を事業計画書に記載すると、事業の実現性と安定性をアピールすることが可能です。薬剤師の確保が難しい地域では、早期の採用活動や人材紹介の活用も視野に入れるとよいでしょう。
5-5. 税金や公共料金などは期日内に支払う
融資審査において、税金や公共料金を期日内に支払っているかどうかは、申込者の信用力を判断する材料の1つです。住民税や所得税、健康保険料、水道光熱費などの支払いに遅延や滞納があると、資金管理能力が低いと見なされ、審査に不利になります。さらに、クレジットカードやローンの支払い状況も信用情報機関に記録されているため、滞納があれば融資が却下される場合もあります。
融資をスムーズに受けたい場合は、日頃から金銭管理を徹底し、すべての支払いを期日内に完了するのが基本です。万が一過去に支払遅延などがあった場合は、自身の信用情報を確認するために、必要に応じてCICやJICCなどの信用情報機関に開示請求を行うのも1つの対策です。信用情報に問題がなければ、融資審査に通る可能性が高くなるでしょう。
6. 薬局の開業資金を節約する方法
薬局の開業には事業資金や運営資金など多額の初期費用がかかりますが、工夫次第でコストを削減することが可能です。以下に、実践的な節約方法を紹介します。
- 居抜き物件を活用する
内装や設備がすでに整っている居抜き物件を活用すれば、開業費用を抑えられます。特にテナント賃貸の場合は建築費用が不要なため、数百万円単位のコスト削減効果が期待できます。 - 設備はリースや中古を検討する
分包機や調剤台などの高額機器は、新品で揃えると数百万円にのぼります。リース契約や中古品の導入により初期費用を抑え、資金繰りの柔軟性も確保できるでしょう。 - 人材ネットワークを活用する
薬剤師の採用コストを抑えるには、業界のネットワークや紹介制度を活用するのが効果的です。知人からの紹介などを利用すれば、紹介会社の高額な手数料を節約できます。 - 助成金・補助金を活用する
地域によっては、開業支援の補助金制度が設けられています。内装費や設備費の一部が補助対象となる場合もあるため、事前に自治体の支援制度を調査しましょう。 - 小規模から始める
最初は必要最低限の設備と人員で開業し、黒字化を確認してから段階的に拡張することで、出費とリスクを抑えられるでしょう。 - M&Aで独立する
既存の薬局を買収するM&Aは、大きな節約効果が期待できる方法です。すでに患者さんが定着し、調剤機器や内装が整っているため、設備投資や広告費を大幅に削減できます。また、実績のある店舗を引き継げば、収支予測を立てやすく、運営初期から安定した収益が見込めます。薬剤師の独立開業支援サービスを利用すると、設備の状態や収益構造も事前に確認でき、安心してスタートを切れるでしょう。
まとめ
薬局の開業には多くの資金が必要ですが、準備の仕方次第でリスクを抑えることも可能です。設備資金・開業資金・運転資金の内訳を明確にし、融資に備えて説得力のある事業計画書を作成しましょう。
また、新規開業と承継開業のどちらを選ぶかによって、初期費用や収益化のスピードは異なります。できるだけ初期費用を抑えたい場合や、運営当初から安定的な利益を得たい場合は、承継開業も選択肢に入れるとよいでしょう。