【第1回】薬剤師よ、いまこそ独立の時──“選ばれる薬局”になるという選択肢
目次
1.薬局の数は多いけど…個人薬剤師にまだチャンスがある理由
「薬局はコンビニより多い。今さら独立しても遅いのでは?」そんな声を、薬剤師の方なら一度は耳にしたことがあるかもしれません。
確かに、薬局の店舗数は全国で約6万店。
コンビニエンスストアの約5万5千店を上回っており、数字だけを見ると「もう飽和している」「競争が激しい」と感じる方がいても不思議ではありません。
しかし、それは本当に正しい見方でしょうか?
例えば、歯科医院は全国に約7万件、美容室は26万件以上、不動産業者にいたっては30万件を超えています。
薬局の店舗数は決して突出して多いわけではなく、むしろ“適正水準”と言える位置づけです。
さらに重要なのは、業界の構造です。コンビニ業界では、セブン-イレブン・ファミリーマート・ローソンの大手3社だけで全体の約9割を占めており、新規参入は非常に困難です。
一方、薬局業界の大手──
- 大手A社:約1,300店舗
- 大手B社:約762店舗
- 大手C社:約945店舗
この3社を合わせても、全国6万店のうちわずか5%未満。つまり、薬局は今なお個人経営が主流の業種であり、大手が市場を独占しているわけではないのです。
これは、個人の薬剤師でも十分に勝負ができる土壌があることを意味します。
2.カフェ経営と比べてわかった、薬局経営の強み
少しだけ、私の話をさせてください。私もかつては、いわゆる“サラリーマン薬剤師”でした。
毎日しっかり働いてはいましたが、年収はある程度の水準で頭打ち。努力しても給料が劇的に上がるわけではなく、将来に漠然とした不安を感じていました。
「自分の力で収入を増やすにはどうしたらいいか?」
そう考え、不動産賃貸経営に挑戦したり、カフェ経営のスクールに通ったりしました。
特にカフェ経営に興味を持ったのは、不動産の空きテナント対策として「店舗経営も一つの活用法では?」と思ったからです。
いずれ自分の物件の一部を自らのカフェで埋められたら──そんな構想を持ち、実際に経営ノウハウも学びました。
カフェ経営のシミュレーションを重ねる中で、私はある気づきを得ます。
同じ「消費されるもの」を扱っているのに、カフェと薬局ではビジネスモデルがまったく違うのです。
たとえば、コーヒーも薬も「飲んだら無くなる」という点は同じです。
しかし、カフェではお客さん1人あたりの滞在時間は1時間、時には2時間にも及びます。
店内の席数が限られているため、「回転率」はどうしても頭打ちになります。
一方、私の薬局はわずか7席しかありませんが、1日に100人以上の患者さんが来られる日もあります。
つまり、薬局のほうがはるかに高い回転率を維持できるのです。
さらに言えば、カフェの客単価はせいぜい500~800円。
これに対し、薬局では1人あたりの単価が6,000~7,000円になることも珍しくありません。
つまり、
客単価 × 回転数 = 売上
それを支えるのが、「薬剤師資格」という専門性
これを他業種と比べて初めて、薬局経営の「強さ」がはっきり見えました。
カフェ経営の場合、集客を維持するために自分で新メニューを開発したり、SNSで日々発信したり、常に工夫が必要です。
商品(コーヒーやスイーツ)は自分で仕入れ・調整しなければなりません。
でも薬局経営は違います。
新しい医薬品は、製薬メーカーがどんどん開発してくれる。
私たち薬剤師は、それを正しく提供することで、常に「新しい価値」を自然に扱えるのです。
商売の世界では「自分で商品を作らなくていい」というのは、非常に大きな強みです。
商品自体は作りませんが、経営者になると自分自身が商品になるので、薬剤師スキルや経営者としてのスキルを磨くことをおすすめします。
3.薬剤師のあなたにとって、薬局経営は“チャンスの塊”
ここまでの話を読んで、「カフェ経営のほうが大変そうだな」と感じた方もいるでしょう。
それはまさに、私が伝えたいことでもあります。
経営を知らなければ、薬局を運営することは難しそうに見えるかもしれません。でも、カフェや不動産など、他業種のビジネス構造を知った今、私ははっきり言えます。
薬局は、薬剤師にとって最も“経営しやすい”ビジネスのひとつです。
もちろん、免許が必要というハードルはあります。
でもそれは、薬剤師であるあなたにとっては、すでにクリアしている前提条件。
つまり、他業種の経営者がゼロからスタートするのと比べて、あなたはすでにスタートラインに立っているのです。
4.この連載で伝えたいこと
本連載は、薬剤師として独立を目指す方に向けた、実践的で現実的な情報提供を目的としています。
- 独立のメリットとリスク
- 自己資金はいくら必要か?どう貯めるか?
- ゼロからの開業と事業譲渡(買収)の違い
- 優良案件の見極め方と交渉のポイント
- 経営の基本的な数字と考え方
- 利益を出すためには仕組みの理解が必要
5.薬剤師として生きる道は、会社員だけじゃない
調剤報酬の改定やAIの進化、地域包括ケアの拡大など、薬局業界は今まさに大きく変化しています。
しかし同時に、「自分で選んで、自分でつくる薬剤師のキャリア」が以前よりずっと現実的になっています。
あなたの目指す薬局は、まだこの国に存在していないかもしれません。
それなら、あなたがつくればいい。
薬剤師であることは、あなたの最大の強みです。その資格と経験を、次のステージへ活かしていきましょう。
この連載を通じて、その一歩を踏み出すお手伝いができれば幸いです。
